新規参入銀行(東京都がBNP信託を買収か?)

 

11月14日付け朝日新聞がスクープしていました。東京都は新銀行設立の手段としてBNPパリバ信託銀行の買収を検討しているというものです。同日、石原知事は記者会見でその事実を認めました。

筆者は、知事のいう中小企業向け金融機能強化拡大の必要性には、全面的に賛成でありますが、新銀行設立は、単なる時間とコストの無駄と考えています。公営の商工ローン会社として、民間金融機関との共同で証券化・流動化を推進する方が、簡便に目的を達成できると思うからです。

ましてや、発表後に漏れ伝わる業務計画案やシステム化案を聞くと、正気の沙汰とは思えない内容ばかりでした。知事周辺や設立検討チームに、銀行ビジネスやシステムを理解する人間は一人もいないのか?と不安になります。まさに、巨額のIT投資に群がるベンダー群の良い餌食となる流れでした。

BNPパリバ信託を筆者は知りませんでした。ほぼ全ての金融機関の名前と概要程度は記憶している自信があったのですが。同行は、年金などの資産運用を主力とする外資系信託9行の一つですが、他行に10年以上遅れて1999年に設立されました。30名前後の社員で、20億円程度の預り資産です。

恐らく何らかの人的関係から声をかけられたのでしょうが、BNPパリバ自体は、この新銀行構想に当初から参画しており、打開策の見えない信託ビジネスから脱却する契機と考えたのでしょう。信託部門を売却できる上に、新銀行との協業関係を活用して、営業パイプラインを構築できれば一石二鳥でしょう。

東京都の買収目的は、新規設立の労力と時間を節約することと、システム投資を抑えることだとされています。振興銀行チームが既に予備免許を得たのに対して、都のプロジェクトからは金融庁に対して本格的働きかけがなく、本当に来年設立する気なのかと思われていました。どうも、構想発表の早い段階から買収案があったのでしょう。

システム投資は、BNPパリバのシステムがそのまま使えるとは思えません。あるのかも疑問ですが。そもそも、わが国における信託システムは旧本業7行と大和銀行(敢えて加えれば、琉球銀行)しかありません。どれも新規参入銀行が使うには、余りに大きすぎます。1993年に新規参入した証券系信託の場合は、野村や大和は業務を絞って自力開発し、山一は信金用パッケージ(預為)に信託分離勘定機能を加える方法をとりました。どこも、融資に力点をおいた機能ではありません。チャネル機能は、ほぼ皆無といって良いでしょう。東京都が想定する、中小企業・リテール金融とは違いすぎます。新銀行では、みずほ信託(又は、MTBかSTB)あたりにBPOとしてアウトソーシングすることが正解でしょう。今更、新システムを構築する意味はありません。

システム化は、ホストを日立(肥後銀行等3行用に開発したものを予定)とチャネル・ネット系はNTTコミュニケーションを中心として検討されているようです。両社ともに、この半年の間に大変な営業費用を投入しています。しかし、都はシステム化予算を議会に提示していないようです。議会の予算承認を前提とする役所ビジネスの、最も恐い落し穴です。もっとも大半のベンダーは、都のリテールバンク構想が、検討チームの思惑通りに実施されるとは思っていませんでした。撤回か大幅なビジネス戦略変更は避けられないというのが、銀行IT経験者の共通の考えでしたから。

その意味では、既存信託銀行を買収するというのは大正解に思えます。中小企業金融では、単なる融資業務に加えて、証券化・流動化が重要な機能となります。その際に信託機能を持っていれば、極めて柔軟な商品設計が可能なことは、当コラムで繰り返して申し上げている通りです。カードやATMなどの余計なリテール・チャネルをやめれば、誰もが納得する案となるでしょう。ただ、これまでの構想では都内信金と全面競合となる形でしたが、証券化が中心となると、今度は信金中金との競合という図式になります。中金の反応が興味深くなります。経産省の電子ファイナンス市場構想とも全面対決です。首都圏の他県が推進する地域金融構想と提携するのも面白いでしょう。

日経新聞の11月16日号には、新銀行の社長候補(信託銀行では、頭取と言わずに社長というのが一般的です)としてトヨタ出身の仁司氏を選任したという記事がありました。14日の信託買収ネタを朝日に先行させたので、日経に借りを返したのでしょう。最近、トヨタ出身者やトヨタ流合理化が葵のご紋になっていることに、日本独特の安易さを感じて嫌な気持ちになりますが、日銀を含めた銀行界出身者でないことは、新銀行にとって良いことでしょう。