電子マネー(貨幣流通量を減らす?)


日経新聞平成18年4月5日号の記事が、議論を呼んでいます。日銀が発表した3月の貨幣流通量において、50円硬貨と5円硬貨が減少し、その他貨幣の流通量も横ばいでした。記事を書いた記者によれば、景気が回復しており、1万円札や5千円札が増えているのに、少額硬貨が減少するのは異常であり、その原因は電子マネーにあるとのことです。根拠として、スイカやエディの発行枚数を引用しています。この1年でスイカが600万枚、エディで800万枚が増えているので、その分だけ現金硬貨が減少しているという論理です。

通貨減少は、50円玉で1.0%減(22億円)、5円玉で1.1%減(6億円)というのが日銀発表です。他の通貨は横ばいあるいは増加です。合計28億円となります。スイカとエディ増加枚数1400万枚の平均チャージ額を5千円とすれば700億円です。こうみると、日経記者が言う「不便な貨幣、電子マネーが駆逐」というのは、いささかオーバーではあるが、因果関係を否定できないと思います。この傾向は悪いことではないですが。

流通関係者の話です。少額硬貨が減少したのは、消費税を内税表示にしたからだそうです。100円+5円の価格を100円にするような値付けが行なわれたそうです。実際に、その前と後ではスーパーなどでの硬貨扱い量が大巾に減ったというのですから、それも事実なのでしょう。筆者も電子マネーを使いますが、だからといって小銭入れの中が減ったとは思えません。

4月14日付けの日経金融新聞「視点論点」で、NRIのシニアエコノミスト木内氏が面白い見方を書いていました。硬貨流通量の減少は電子マネーだけでは説明できない。紙幣発行残高も、伸びが鈍っているからである。その原因はタンス預金の取り崩しではないか・・・との仮説を提示しています。(少額硬貨をタンス預金にするかは疑問ですが。)木内氏は、幾つかの前提を置きながらタンス預金の規模を試算しています。結論を言えば、20兆円前後と見積もっています。そして、その90%にあたる18兆円が1年ほどで取り崩される。即ち、市場に出てくる可能性があるというのです。これは、団塊世代の年間退職金の15〜20兆円にも匹敵する規模です。このホットマネーは、個人消費やGDPを押し上げつつ、金融商品や不動産投資に向かうことになるので、市場に大きな影響を与えるとしています。

これらの話は、単なる「風が吹いて桶屋がもうかる」式の話ではありません。マネーフローは、金融市場に地殻変動的な影響を与えます。この大きな流れを、投資家がどう読むか?大量のタンス預金を持つ顧客層とはどんな層か?タンス預金の新たな投資先を読めるのか?金融機関はどんな商品で対応するか?その為のマーケティングをどうするか?いずれにせよ、大量の資金の受け皿が問題です。発行残高が最盛期に戻ったといっても、公募投信市場は50兆円台です。受け皿としての金融市場は、多様性、厚みともに不足しています。米国に見られる証券化・再証券化は、期待されるほどには進んでいません。制度的な問題もあるのでしょうが、金融機関が伝統的業務に固執していることも一因です。退職金やタンス預金という大きなマネーフロー変化の時こそ、ビジネス・モデル変革の好機なのですが。

金融ビジネスは多様化・高度化しつつ、機能のアンバンドリングと水平構造化していきます。時間軸の判断が重要ですが、各金融機関は目指すビジネス・モデルの構築を急がねばなりません。その際のITはどのような体系が望まれるのか?銀行も証券も、基本的には、二、三十年前のコンセプトのままです。レガシーかオープンかなどという話ではなく、ビジネス・アーキテクチャの再設計が必要だと思います。

ニッキンの4月14日号に、大手ITベンダー6社の営業重点分野が紹介されていました。オープン勘定系、外部委託・共同化、営業店等チャネル、セキュリティ、内部統制、市場・国際系などに注力するそうです。これらの必要性を否定しませんが、もう少し、顧客である金融機関の戦略的方向性を意識して欲しいものです。