国際CMS (伊藤忠商事がグローバル資金一元管理)

日経新聞の平成25年7月11日付記事です。伊藤忠商事が、ニューヨーク、ロンドン、シンガポール、日本の金融拠点を結んで、\、米$、、£の余剰資金を集約する新しいCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)を稼働させたそうです。これまでは、各地域内で資金の一元管理をしてきたが、これからはグローバルな資金管理体制とし、海外拠点で資金不足が発生すると東京で必要な通貨を調達して融通します。今年3月末には、外部から2600億円の借入があり、その利子負担や為替差損益を減らすことができます。パナソニックなど電機大手などでは、グループ全体で導入しているが、商社では初のケースだそうです。

一読して妙な報道だと感じました。世界数十カ国で事業し、毎年10兆円以上の取引を行う大手商社が今頃、国際CMSを稼働させたというのは合点できません。大手製造業などは、当り前のシステムとして導入済みです。商社が導入していなかったとは考えられません。何か特別な機能を追加したシステム更改なのだろうと記事を注意深く読みなおしたのですが、そうでもないようです。であれば、商社に特殊な事情があって、グローバル統合CMSを導入し難い理由があるのでしょう。

CMSは50年以上の歴史あるサービスです。国際CMSも1970年代に米系大手銀がサービスを開始し、日系銀行も1990年代に力を入れて普及させました。他通貨会計対応機能や先物等デリバティブ機能は1990年代後半から採用されていますが、基本的なサービス機能に大きな変化はありません。ITベンダーや会計法人などもCMSソフトを販売しますが、多くの場合は銀行提供のソフトかサービスを利用します。3メガも提供していますが、欧米系大手銀行は、常に先進的システムを提供しています。その専門部隊は大きな組織です。日系企業は、東京には幹事行のメインバンクのシステムを、海外では欧米系大手銀システムを使うことが多いようです。そのソフトそのものは、数千万円で導入できますが、自社会計システムとの連動や各拠点システムにおける外部との接続に相当な準備と費用がかかります。

1985年に国際CMSのサービス内容を調査する為に、東京にある海外大手銀を片っ端からヒアリングに廻ったことがあります。大蔵省系の財団に出向していた時のことです。どの銀行も親切に応じてくれて、随分と勉強になりました。JPモルガンやチェース・マンハッタン、ケミカルなどが一歩先んじていた記憶がありますが、外資系同士のCMS競争は熾烈でした。その点、日本の都市銀行は、国際CMS競争を諦めて、単純なサービスをサブとして提供するだけでした。JPモルガンなどは、その時点で世界10万社の利用企業を抱えていたので、驚いたことを覚えています。

国際CMSは、大きく6つのサービスで構成されます。@プーリング(各拠点の銀行口座から統括口座に余剰資金を集中させる。ゼロバランスは現金払い用の少額だけ残して、ほぼ全ての資金を統括口座に吸い上げる。ターゲットバランスは、一定の金額か比率を定めておいてそれを上回る資金を集中させる。)拠点で必要な支払い用資金は必要都度配布するか、統括口座から支払いを行う。 A定期性貸借(設備資金などを事前の取り決めに従って、統括口座から資金を配布する。) B支払い代行(グループ企業の支払いを統括口座が一元的に代行する。) Cネッティング(グループ会社間の債権債務を相殺した結果のネット金額のみを統括会社から債権超過口座の資金枠に算入する。) D給与振込代行(グループ内各社の従業員向け給与支払いを統括口座で一元的に行う。特に海外拠点では、各地の制度的条件もあり、現地スタッフの負担が大きいので本社で代行するメリットは大きい。) E資金繰り管理(TMSトレジャリー・マネジメント・システム、狭義にはCMSの一部として為替や金利などの状況に応じて資金アロケーションの最適化を行う。広義には、CMSを利用してグループ全体の財務管理を行う。)

今回、伊藤忠が稼働させた国際CMSは記事からすると最も基本的なプーリングを4地域毎に実施していたのをグローバルに一元化するということです。ですから、何故今頃という疑問になるのですが。恐らく、もっと深くて、先進的な機能を付加した筈です。発表の仕方が下手なのか、取材した記者に前提知識がなかったのではと推察します。

もっとも、前述したサービス機能だけを見ると、CMSは効率化ができて、便利な機能に思えますが、いざ、導入しようとすると、様々な障害や制約が出てきます。各地の制度的制約、商慣習、経理会計システムとの連動、決済システムとの関係、そして大きいのは複数の銀行との取引関係です。統括口座を扱う銀行には大きなメリットですが、それ以外の銀行は資金を吸い上げられてしまいます。当然ながら融資や外貨取引などに、その不満が反映されます。また、現地会計スタッフの仕事が減りますので失職する社員も出てきます。海外企業は、そのあたりはドライですが、日系企業はとてもウェットです。商社はドライというイメージが強いですが、銀行並みにウェットです。恐らく、様々なしがらみで、これまでグローバル統合ができずにいたのでしょう。トヨタのように資金管理を全く別会社化して強力な金融会社を作っても同じようなことがあるようです。

グローバル競争が、欧米の大手企業間の競争だけでなく、トップダウン経営に従って参入する新興国の競争相手は、こうしたしがらみがありません。競争ルールが大きく変わりつつあるのでしょう。欧米系大手銀は、広義のTMSサービスを強化拡充しつつ、SWIFTのTSU(TradeServicesUtility)を使って、企業のサプライチェーンを決済面からサポートし始めています。こうした状況において、日系大手銀は、どのように対応するのでしょう?

数年前に大きな共済組合のCMS検討を手伝ったことがあります。取引のある銀行、数行からCMSの提案を受けました。どこも単純な機能を、ただ、押し付けてきました。その費用もばかにならない金額です。加えて、データ交換の仕組みも極めて原始的です。XML化できないかと聞けば、XMLも知りませんでした。ITは行内事務合理化のツールだけと考えているようです。ITを使って顧客に付加価値を提供するという発想は弱いようです。従来のシステム部門とは別に、社外の取引先に対するITサービスを企画・開発する部門を新設するケースがあります。三菱東京銀行が10年ほど前にIT事業部を設置したのが最初だと思います。最近、他の大手行でも同様の部門を立ち上げているようですが、余り活躍を聞くことがありません。銀行のIT戦略を内向きから外向きに変える重要な部門だと思うのですが。

                                                 (島田 直貴)