マイナンバー対策とIT技術者不足問題

日経新聞平成25年11月14日付に、検証マイナンバー対策というシリーズ記事がありました。制度対応のシステム改修で特需が2.6兆円発生するが、2015年までと準備期間が短く、SEが7、8万人不足するとしています。制度の詳細決定、改修箇所の特定、予算処置などを考えると来年夏以降からしか作業開始できず、1年強の期間に改修作業が集中することがSE不足に拍車をかけるとしています。

特に自治体では深刻な問題になるとされています。自治体にとっては、経験のない複雑な外部接続が多く、利用するベンダーも地元の中小ベンダーなので、技術的にも要員数でも不安が大きいというのが、その理由です。2000年問題以来の2015年問題として、アピールしたいという報道姿勢が、強く見られます。

確かに、来年春には消費増税があり、会計関連のシステム改修が大きな需要となります。続いて、マイナンバー制度ですから、開発業者にとっては特需が続くことになりそうですが、果たしてそうでしょうか?そうはならないと言い切れる訳ではありませんが、総務省は自治体クラウドを早期に稼働させて、少なくとも外部接続はハブシステムを作って開発負担は減らす予定です。マイナンバー対応の新規アプリの多くも、共同開発やクラウド対応を予定しています。各自治体側では、既存システムの変更箇所の手当てが中心となるでしょう。であれば、特需といっても、現行ベンダー以外に改修作業はできません。現行システムに全く関与したことのない技術者が、突如現れても、何から手をつけたら良いかわからないでしょう。

制度変更によるIT需要予測では、しばしば証券会社のアナリストが試算結果を公表します。しかし、試算根拠を開示するわけではありませんので、検証のしようがありません。予測より大きくなるのも、小さくなるのも、発注者側が、どこまで自分のシステムを整理しているかによります。自治体の多くは、システムを丸投げしていますから、大量な記録文書はあるでしょう。しかし、その大半は役にたたないと思います。文書量が多いということは逆効果で、その検証に労力を奪われます。時間が迫って焦り出すと、予定日に何でも良いから稼働することが目的となります。

当社は優秀なオフショア・エンジニアを数千人抱えていますので、お任せ下さいと営業している会社があるそうです。ひどいベンダーもいるものです。発注者に、「元がスパゲティーで、何を作るかも整理されていないのに、何故作れると言い切れるのか?」と疑問をぶつけても、「いや、あれほどの大手企業が言っているのだから大丈夫ですよ。」としか答えません。こうなると好きにすればとしか言いようがありません。“夜道で落とし物をしたが、暗くて見えないので、離れた街灯の下で捜す男”という笑い話を思い出します。

マイナンバー(この名称は公募ですが、民主党時代の名前なので、自民党になってからは共通番号制度と関係省庁は言うそうです。)は、いろいろと良く考えた制度だと思います。しかし、末端の実行力が制度開始の可否を決めます。政府内閣官房や総務省の担当者は、2014年までには詳細を決め、テスト入りできるようにするので、各自治体は首長を中心に準備を進めて欲しいというばかりです。おおまかな行程表だけでは、どうにも対応のしようがありません。自治体側からは、早く詳細を決めて教えろと悲鳴に近い声があがっています。

似たようなことが、金融の大規模プロジェクトで続いています。ある大手機関では、ベンダーを変えて新システムの構築を行っています。まずは、現行アプリのソースを分析して、新ベンダー規格のプログラムに単純コンバージョンします。数百万ステップあります。COBL経験者を大量に集めて、ソースからドキュメントを作ってオフショアに廻します。業務も見直さず、何故、アプリだけ単純コンバージョンするのか判りませんし、全て人手でやるというのも理解できません。ま、それは何か事情があるとして。集めたCOBOL技術者の大半は、当該業務を知らないベテランばかりです。手当たり次第に集めたようです。皆さん、長年の経験に従って、それぞれの流儀でドキュメント作成するそうです。それを、そのままオフショアに廻す。誰がどう考えても、できたら奇跡だと思う手法ですが、内部では誰も気にせず、黙々と働いているそうです。いずれ、責任問題や賠償問題にならないかと心配になります。

別の金融機関では、全く新しい開発手法と態勢を取り入れて、大規模開発をスタートさせました。各ベンダーの強みを発揮させながら、発注者が主導権を握れるという触れ込みです。態勢は、面白いのですが、発注側の制御能力に大きな不安がありました。そもそも、超大規模システムですので、手をつけられるのか、まして、現システムのドキュメントも殆ど信用できない状況で!というのが、周辺関係者の共通意見です。うまく行かないと、ベンダーが集めた大量の技術者は多少の違約金だけで返されます。ベンダーとしては、次の仕事を手配するのに、数か月かかるのが普通です。その間の人件費ロスは、営業粗利益5%のSIビジネスでは、とてもカバーできません。ベンダーは、その年の業績も株価も悲惨なものになります。

筆者は、昔、外資系ベンダーで営業企画を担当していたことがあります。提案書のレビューも仕事の一つでした。その時に、金融機関の顧客を格付けしました。経営トップ、ITトップ、プロジェクト・リーダー、企業風土、過去のトラブル履歴、支払い状況などで格付けするのです。相手が金融機関ですから、財務状況などは無視ですが、技術力や管理能力やベンダーとのコミュニケーション力、協力態勢などは重視しました。特にPMの人間性は良く調べました。結果は、リスクコストという形で価格に反映しますし、こちら側のプロジェクト態勢にも反映しました。やる前からリスクの見える良い時代でした。

最近は、どのベンダーも受注至上主義のようです。できないことでも、お客の要望とあれば、ハイと受けて頑張ります。成功すれば良いのですが、通常は失敗します。何故、できないと言わないのか?何故、この方法の方が良いとお客とケンカしないのか?発注するだけの人達、売るだけの人達、その後で実プロジェクトで苦労する人達、それを怒鳴るだけの人達、なぜバラバラなのでしょう。売る方も売るほうだが、買う方も買う方だというのが、最近、筆者の口癖になってしまいました。

案件は大きいが、失敗確率が高いとなればいろいろな影響が出ます。元々、国力に比して圧倒的に少ないIT技術者はどこに向かうでしょうか。公共機関は、よほど、ベンダー側に瑕疵のない限り、支払いで騙される心配はありません。加えて、アベノミクスや行政改革で案件も予算も増えます。かつ、発注側にITプロは殆どいません。質問、要望等に真面目に対応しておけば、技術的には自分の好きなようにできます。それは楽しいですから、金融から公共に技術者シフトが進むでしょう。その結果、外部依存度の高い金融業界はどのような影響を受けるのか?堅実なベンダーがいつまで付き合えるのか。

最近は、導入実績の優れたITベンダーですら、不採算案件を連発して業績を落としています。しっかりしたお客とのパートナーシップによってのみ、開発案件の成功が期待できます。これから始まる金融系大型案件が、まだ数件あります。結構、意外性の高い計画を練っています。この新規案件のプロジェクト計画を見るのが楽しみです。

                                                   (島田 直貴)