野村HD、3地銀と新会社 (千葉銀などと資産運用助言)

日経新聞令和3年5月10日付記事です。野村HDが千葉銀、第四北越銀、中国銀との共同出資で個人向け資産運用助言会社を設立するとの報道です。新会社は、金融商品の販売仲介は行なわず、オンラインによる中立的な助言に徹して、助言手数料を収益源とするそうです。業態を越えて総合的な金融コンサルティング会社を目指します。

日経記事は大きな扱いでなかったのですが、金融業界紙を始めとする他メディアが相次いで補足取材し報道しています。金融仲介法制が年内に施行されこともあるのでしょうが、資産運用支援ビジネスが金融業界の次の主要成長市場になるとの考えが背景にありそうです。野村は、この合弁構想に先駆け3月31日に野村総研と共同で金融仲介支援プラットフォーム開発、提供の計画を発表しています。その野村総研は数年前からFP/FAプラットフォームの調査研究を進めており、海外の金融FP/FA支援プラットフォーマーの買収なども進めています。

メガバンクは富裕層ビジネスの見直しと並行して資産運用助言プラットフォームに関する調査検討を進めてきましたが、具体的なソリューション・イメージを作れずにいます。日本では助言でビジネスが成立するか確信が持てず、富裕層の巨額取引へのおまけサービスの域を抜けるアイデアがない模様です。そこで、無料のライフプラン診断の提供を始めています。みずほ銀やりそな銀はIB利用者に限定せずオープンな無料サービスとして提供を始めました。オンライン診断サービスと有人コンサルを連携させるO2O戦略を考えているようです。ラップなどとも組み合わせるシナリオかと想像します。ただ、今のところ銀行商品に限定されており、野村と3地銀のような他業取引を含めた中立的な総合金融助言ではありません。オープン化戦略には踏み切れないようです。IT業界ではオープン化戦略が成長を左右しているのですが、コモディティ・ビジネスのわが国金融機関は事業戦略のオープン化に踏み切れないようです。日系IT企業は既に回復不能なまでに遅れてしまいました。金融業界も致命傷にならなければ良いのですが。

野村が地銀と組む理由は、資産運用助言を有望な新規ビジネスと捉えていることがあると思われます。それも高齢富裕層狙いという旧来の発想ではなく、年齢を限定しないでアドバイス・フィーを払える程度の富裕層にオンラインでサービス提供するという戦略です。大手証券会社は200〜300万人のアクティブ顧客を抱えていますが、顧客層の拡大が難航しており、高齢化も大きな悩みです。そこで地方銀行が抱える優良顧客を狙って地銀との連携を選んだのでしょう。地方の金融優良顧客に対して地域No.1地銀は圧倒的なチャネルを堅持しています。

地銀の側からすると、営業地域内の顧客数拡大は難しいので、取引深耕を図るのが自然ですが、銀行商品だけでは限界があります。販売仲介をしないで助言手数料だけを狙うというのは、冒険かも知れませんが、販売仲介に拘ると顧客ニーズに合わないと考えたのでしょう。あくまでも顧客の側に立った総合サービスの一貫と考えれば、急がば廻れといったところでしょうか。

千葉銀は、15〜20人で新会社をスタートさせる考えのようです。4社合弁ですから、一社平均5人くらいを派遣することになりそうです。オンライン・チャネルですから、一人で100人程度の顧客は担当できるでしょう。仮に2千人の顧客で一人当たり預り資産が3千万円、助言手数料を1%(米国では3〜5%)とすれば、年6億円の手数料収入となります。DX化して20人の社員数であれば、営業利益率20%以上は期待できます。更に関連するウェルネス・サービスを追加していけば、新たな中核ビジネスとしての可能性が膨らみます。

今回の3地銀はTSUBASAアライアンス参加行です。同アライアンスは11地銀がメンバーです。この合弁会社計画は全参加行で共有されている筈です。しかしながら、今回発表は3行だけに留まりました。親密証券が野村以外だとか、この合弁事業に割ける人員が手当できないとか、自行には証券子会社がないとかいろいろな事情があるのでしょう。まずは、3行だけでもと見切り発車したと推測します。この決断は正しいと思います。集団で動く時の最大のリスクは最も決断と実行の遅いメンバーに脚を引っ張られることです。弱い味方は強い敵よりもリスキィです。

アライアンスといってもTSUBASAはルーズリーな提携を良しとしていますので、後から参加しようが、別のプラットフォームに乗ろうが各行が自分にベストという判断が許容される。その結果として各行はオプションの範囲が拡がり、スピードを確保できる。これからの金融アライアンスの成功要因だと思います。ただし、情報収集だけを目的に参加する銀行もあるでしょう。これらを排除する仕組みも必要ですが。

補足しますと、助言プラットフォームは先行する海外(欧米だけでなくアジア新興地域でも)では、洗練されたダッシュボードは当たり前で、国際的ルール慣行、各国制度に応じた多様なフロント、ミドル、バックのハイブリッド化が進んでいます。わが国のような特定パッケージをベンダーに丸投げしていては対応できません。自社でコンポネントを選択してビルドアップする能力が必要です。その際にベンダーをつかうのは構いませんが。このノウハウ習得が、今回、地銀が野村に求める重要な期待の一つなのかもしれません。

 

                                    (令和3年5月18日 島田 直貴)