銀行のデジタル展開促す(改正銀行法が成立)


日経新聞令和3年5月20日付け記事です。金融関連改正法案が19日に参院本会議を通過しました。ここ数年、毎年のように大きな改正案が国会に上程され、成立しています。議員立法ではなく、行政当局による法制度見直しが強力に進められていることを顕わしています。金融庁は民間金融機関が対応できるように段階的にですが着々と業務規制の緩和を進めています。

行政の狙いとしては、少子高齢化や日本経済の成熟化、グローバル化やDX化などの環境変化を受けて、国民経済により有効な金融サービス展開を可能にすることと、金融業界の経営戦略選択肢を広げながら、収益機会を多様化することにあります。個々の金融機関としては、以前のように、制度改正に対して都度対応していたのでは、折角の事業再編機会を失うばかりでなく、人材手当てや対顧客関係の整備などで後手に回り、新事業機会による収益を得ることができなくなります。つまり、単なる謳い文句ではなく、自社の経営理念、事業目的と営業戦略を整理して、レバレッジとなる施策を中心に関連する経営資源(時間、人材、チャネル、システム、資金、情報)の最適化を図ることが不可欠です。

こうした経営上の考え方は、理屈として業界の共通認識であるものの、実際に戦略的目標を定めて、経営資源の調達、配分、施策実施、成果の見直しなどを実行している金融機関は限られるのが現実かと思います。護送船団方式の産業文化が残っているのか、意思決定メカニズムが市場原理とかけ離れているのか、市場(即ち我々個人や企業、株主)が求めていないのか。しかし、様々なチャレンジを進める金融機関では、成果をあげ出しています。その共通項は強力なトップのリーダーシップとそれを支える参謀陣の存在と言えるでしょう。マクロ的な阻害要因は、真昼のお化けなのかもしれません。

今回の改正案の柱は、5つあります。

@ システム販売、広告、人材派遣など業務規制の緩和

A 地域活性化事業会社などへの出資規制の緩和

B 海外子銀行における業務範囲外事業の継続保有

C 合併や経営統合におけるシステム統合への補助金支援

D 海外投資ファンドの日本での登録手続の簡素化

です。こうした規制緩和は、以前から緩和方針が表明されていましたので、金融機関の中には先行的に態勢を整理している銀行もあります。特に地域特化の通販サイト、地域商社、人材紹介、広告事業などです。不動産関連の規制緩和を求める声も多いですが、大都市圏においては、ニーズが大きいものの、市場に参入する企業が既に充実していますし、地方都市の場合は供給過剰が目立つので、国民経済的効果が見込めないので、規制緩和の大きな流れにはなっていません。

さて、日経記事の見出しですが、「銀行のデジタル展開促す」とあります。上記の規制緩和とどう繋がるのでしょう。具体的には、地方で事業拡大の可能性のあるECサイトや地域商社や人材紹介のプラットフォーム構築などをデジタル展開と表現しているのでしょう。少々無理のある見出しかもしれません。

金融機関のデジタル化には大きく局面が3つあります。@は内部のペーパーレス化や業務プロセスの電子処理化 Aは、対顧客チャネルやプロセスの電子化 Bは@とAに加えた新たなサービスで新収益源を開発する。の三つにしたとします。@は今では当たり前、Aは現在、進行中で法改正がなくても進められます。Bは新たなサービスをデジタルで構築して新規収益を目指すことが求められます。金融機関からすれば、「そんなことは判っている。具体的な新サービスが見つからないから困っているんだ。」ということでしょう。まさか、規制緩和するから、一般事業会社が成功しているデジタルサービスに参入しなさいという意味ではない筈です。

実は、上記の@ABは順列ではありません。ネットユーザーを増やす為には、少しでも多くのサービスを用意することが効果的です。他社にないようなBのサービスがあれば、@もAも一挙に膨らみます。わが国では、行政だけでなく、金融もサービス開発競争ではなく、ネットワーク口座数の競争を優先します。マイナンバーカードがなかなか広がらない理由を考えると判り易い。ネットワーク・ユーザー数競争みたいなものは、電子決済業者にやらせておいて、全く新しいサービスをデジタル・チャネルで提供することを考えるべきでしょう。ただし、この場合の抱き合わせ販売には留意が必要です。アリババのような密連携に複合化すると、後に身動きが取れなくなる可能性があります。独禁法との関係だけでなく、オープン化戦略というDX時代の基本を失う危険性があるからです。

金融機関のDX戦略における最大の悩みは、従来チャネル・ビジネスからデジタル・チャネル・ビジネスへの移行です。移行の時間軸が読めないだけでなく、その間のチャネルコストの二重化がとても重い。デジタル・チャネルの経費率は、現在のチャネルで60〜80%ですが、デジタルだけの場合は40%程度が現状です。事業が拡大すれば20%くらいにまで抑えられることもあります。しかし、当面は収益の80%以上は既存チャネルからです。このアンバランスとダブルコスト問題をどう解決するか。DXサービスとしてECや人材紹介を開始しても、当面は年に数億円の売上で利益はマイナスか良くても数%でしょう。とても、今のコスト構造や収益構造を改善できません。下手すると重複コストで存続できなくなる危険すらあります。赤字の期間をいかに短くするか。スピード命ということです。やはりオープン化戦略しかないと考えます。

コモディティ産業である金融業界のオープン化戦略はいかにあるべきか、自行はどのオプションを選ぶか。それがDX戦略の肝と言えるでしょう。Effectuation理論などが参考になりますが、各社の実情に合わせた主体的実行部隊の存在が不可欠なのは確かです。

 

                           (令和3年5月25日 島田 直貴)