繰返すシステム障害と企業文化


みずほFGは6月15日に第三者委員会による調査報告(中間)を公表し、それを踏まえた社内特別調査委員会の社内調査委員会による原因究明・再発防止策を発表しました。この報告書等に関しては多くのメディアが報道しており、各社の指摘にさしたる差はありません。障害時の経緯とみずほ担当部署の対応ミスを指摘しつつ、最終的には顧客視点の姿勢不足、MINORIの運用と障害対応に対する組織力不足を指摘しています。

障害が連続した2月から3月頃から、何故、みずほ銀だけで障害が続くのか、ガバナンスや組織文化に問題があるのではないかとの疑問が多方面で提起されました。筆者のところにも、技術面や組織面での質問が多く寄せられました。会話だけでは、正確さが懸念されるので、簡単なメモを渡すことにしています。そのメモには、

@ システム全体の構成と機能連関を把握する要員がいないのではないか?

A マルチベンダーのツールや開発委託で複雑化し過ぎたハード、ソフト構成を組織的に運用管理する仕組みができていないのではないか?

B 個々の障害に対する原因究明の結果、出てくる再発防止対策は実施可能であろうが、もぐら叩きが終わることはない。

C MINORI稼動直後に大量のシステム要員が異動、退職した結果、スキル・ポートフォリオが崩壊しているのではないか。だとすれば、その回復は難しいだろう。

D 合併当時から旧3行出身者間のコミュニケーションや仕事の進め方に大きな違いがあった。それをたすき掛け人事によって増幅させたままだったのではないか。

E基幹システムはその企業の企業文化であり、経営戦略そのものだが、その一貫性、整合性が欠けているのではないか?

などと書きました。

親しい記者には、「障害は要件定義、プログラム開発、検証・テストの各局面で3分一ずつ組み込まれると経験的に言われている。また、テスト検証と障害対策は開発当初からの作業に組み込むべきで、プログラムを作ってからでは遅すぎる。それができていないとすれば、開発の目標設定に問題があったのかもしれない。」とも付け加えます。記者達からは、組織文化とは具体的に何のことで、それがシステムの仕様や開発・運用にどのような影響を及ぼすのかといった質問は全くありませんでした。日本的な阿吽文化でそれが我が国の組織文化なのだろうと考えてしまいます。

みずほFGは16日に記者会見をしました。その時の質問「10年前の大規模障害の際も企業風土の課題が指摘されていたが?」に対して坂井社長は「企業風土は結果として醸成されるもので、簡単には変わらない。だからずっと同じなのかというと、そうではないと思う。」と答えています。マネジメント論、組織論からすると坂井さんの回答は正しい。記者が企業風土という抽象的単語で質問したこと自体が間違いということなのか。

しかし、坂井さんの回答は当事者が言う台詞ではではありません。あのような言い方をすると経営トップの自分でも対応できる範疇ではないとなります。では、どうすれば良いかと。社員の行為、行動を変える仕組みを創ることです。結果につながるのは個々の社員の行為だからです。それが蓄積すると企業文化になります。米系企業の経営者なら、まず、ここに手を付けます。自分にはどうしようもないと言えば、その場で交替でしょう。

筆者が昔、外資系IT企業のコンサル時代に研修で教わったことに「企業文化とITの連携」というテーマがありました。まず、企業文化にはどんなタイプがあるか、それは、どうすれば可視化できるか。構成要素は15種あり、それを可視化して、目指す企業文化に寄せていく方法。ITシステムの要件設計では、各構成要素の特徴をいかに反映させるかなどです。

構成要素の15種類とは以下の通りです。@企業ビジョン A共有される価値・理念 B行動規範や非公式なルール、慣例を含む企業文化 C組織構造 Dコミュニケーション E意思決定の仕組み F業績評価 G雇用条件 H給与・報酬体系 I福利厚生や昇進、勤務形態などを含む人事制度 Jスキル・知識・知的資源などの組織能力 K個々人のスキル L管理機能・管理スタイルなどのリーダーシップ M社員の満足度などのモラール N変化への許容度です。

これで全てかどうかは判りませんし、重複する点もありそうです。しかし、少なくとも企業文化に影響を与えるので管理すべきエンティティでしょう。一言で企業文化といえるような抽象的なものではないことが明らかです。この15要素は単独で機能するのではなく、互いに複雑に影響しあいます。伝統的銀行業の場合、最終的には行動基準と評価システムに行き着くでしょう。デジタルバンクでは全く異なりそうです。

先程、企業文化の可視化と書きましたが、欧米の経営管理学者は、その調査方法も研究していて、成功した企業の各構成要素の特徴などを分類しています。ベンチマーク・データがあるのです。日本の経営学者は企業文化という一言だけで片付けます。日本の経営者は本音ではベンチマーク・データを信用しません。理由は、自社が外部調査に対して本当の姿を回答していないからでしょう。または、自社は他社とは違うと思い込んでいるのかも知れません。

基幹系システムのアーキテクチャを考える時に、データとプロセスを集中するか分散するか、それぞれをいかに連携させるかが大きな検討課題となります。その時に、社内管理規定だけでなく、顧客目線、社内管理目線、職種別社員目線などが反映されます。基幹系システムが経営戦略に加えて、企業文化、組織文化を集約したものだとされる所以であります。

例えば、ATMの操作応答時間は様々な処理やコンフィギュレーションによって決まります。A銀行は応答時間が他行比で遅い。しかし、ミスもなく障害も殆どない。B行の手数料体系は顧客に不利で未記帳取引明細件数は他行比で圧倒的に少ない。しかし、応答速度は速く、止まることもない。C行は応答速度が速くて、手数料は標準。ただし、時々止まるし、その時の行員の対応も悪い。その設計原点は止めないこと。それは顧客利便もあるが外部から批判されない為と考えれば、ITと組織文化の関係が理解できるでしょう。

 

                               (令和3年7月4日 島田 直貴)