フェイクの姿が見えた (オピニオンの科学)


日経新聞の令和3年7月18日付けコラム「EverydayScience」です。SNSにおけるフェイク・ニュースを見分けるアルゴリズム研究に関する記事です。フェイク・ニュース拡散やSNS上での誹謗中傷、偏った意見の集団暴論などを懸念する人は多いでしょう。サイレント・マジョリティですが。そう考える筆者自身も時にエコー・チェンバー現象に巻き込まれ、サイバーカスケード化を助長しかねない危険性を感じる時があります。

SNSが民主主義の死に手を貸しているなどと大上段に構える気はありませんが、客観的な事実に基づかず、情緒的な判断に陥ることは避けなくてはと思っています。こうしたリスクは、トラスト・ビジネスである金融機関にとっても他人事ではありません。しかし、自分ごととして対策をとっている金融機関を聞いたことがありません。大手金融機関の中には、ランサムウェアと同等の風評リスク対策として、SNSモニタリングを外部委託している所もありますが、炎上につながりそうな投稿に対して何らかの声明を自社サイトに掲示する程度です。

記事の概要は以下のようなことです。つくば大の佐野助教が、集団の相互作用に何らかの原理があるとの前提で、東日本大震災の時のデータを分析したそうです。情報を転送する間柄を線で結びました。いわゆるネットワーク分析です。するとフェイクと正しい情報では情報拡散の形が全く異なる。正しい情報は発信源を取り囲む星型のネットワークですが、フェイクだと発信源がばらばらで、拡散の軌跡は激しく乱れたとのことです。

佐野さんは中国やイスラエルの大学などと共同で研究を進め、情報拡散の形から、真偽を見分ける数式を開発するなどして、論文を公開しました。フェイク情報の監視にも使えますし、早い段階で真偽が分かれば、どのポイントに修正情報を流せば良いかも決められる。この操作自体が情報操作となる危険もありますが、それは法制度として確立するまでは、ネット企業による自主規制とするしかないでしょう。いずれにせよ、ネットワーク上を飛び交う情報の洗浄手段が開発されるのはありがたいことです。

信頼できる洗浄手段が揃うまで、我々は残念ながらアナログ方式で情報の真偽を確認するしかありません。筆者が長年やってきた方法は、恥ずかしいほどベイグですが、@発信者・情報源の確認が第一です。日経だとかNHKといった組織名ではなく、報道ネタの出所と記者を意識します。重要と考える分野では記者名と主要記事、そして記事の評価をリスト化し、記者の信頼度をランク付けしています。A情報内容に関して事実としての事象と発信者の意見や評価は分けます。そして、その情報をフォローすることで、事実と思ったことが真だったかを確認し、発信者の考え方の筆者にとっての是非を仮置きしておきます。B複数の情報源で確認する。例えば新聞であれば、政治思想的に中立系と左右の三紙を読んでいました。今は、ネットでニュースを追いますので、必ず各ニュースの発信元を確認します。マスメディア以外の情報の場合は、生活実感として納得できない場合は、Webなどで確認します。

随分と手間がかかるようですが、習慣化するとたいした手間ではありませんし、確認の過程で新たな学びも多い。ですから、会話の相手が「新聞に出ていましたね。」とか「テレビで映っていました。」なんて発言するとその人に対するトラスト・ランクは急落してしまいます。

さて、トラスト(信頼)をコア・バリューとする金融機関にとって、信頼とはどういうことで、それを維持、醸成するには具体的に何をすれば良いのでしょう。うそをつかない、約束は守るということだけで、DX時代の信頼は得られるのでしょうか?金融機関の方々とは、これまで様々なワークショップなどでご一緒しました。いつも、抽象的な「信頼」という言葉でお互いに分かったつもりで、普遍的な価値のように扱ってきました。DX環境における顧客とのコミュニケーションは、その構造も内容も、1:1の対面や1:nの約款ベースとはだいぶ異なってきそうです。まして数百万、数千万の顧客ベースとなるとSNSだけでなく、チャットやコールセンターでの会話など膨大なコミュニケーションとなります。更に、顧客同士や未取引先を含めたn:nのコミュニケーションも金融機関に対する信頼イメージに大きく影響します。

これら膨大なデータを集めて解析するにあたり、主たるメジャメントを自社に対する顧客の信頼度としてその変化などを解析するためのアルゴリズムを開発したら、競争力強化に直結しそうです。DX戦略を抽象的に捕らえて、AIやらRPAなどツールの導入に終わってしまうと時間と費用と労力の浪費に終わってしまう。昔から繰り返すIT業界のジャーゴン・ビジネスにまたまた騙されたという結果になるのではないか?フェイク・ニュースだけでなくフェイク・ビジネスにも騙されないリテラシーが必要です。このリテラシーも自社における定義と体系化が必要です。

 

                       (令和3年7月19日 島田 直貴)