スマホ決済 消耗戦限界 (PayPay加盟店手数料を全面有料化)


令和3年8月20日付け日経新聞です。QR決済最大手のPayPayが中小加盟店手数料を有料化すると発表しました。これまでは利用者へのポイント還元、加盟店へは手数料免除を無料と大盤振舞いして会員数4100万人、加盟店340万と拡大し、取引高シェア68%とQR決済市場のドミナント地位を確保してきました。ただし、営業損益は前期726億円、前々期822億円の赤字です。親会社Zホールディングスの資金力があればこその戦略で、この営業戦略には賛否が分かれています。いずれ、有料化すれば加盟店、特に中小加盟店の離脱が起きるとの見方が多い。

当初から加盟店手数料は今年9月まで無料としてきましたので、業界の関心は手数料率でした。他のQR決済大手は2〜3%なので、それを少し下回る率になると予想されていました。発表では基本プランだと1.98%、顧客管理システム・サービスのマイストア ライトプラン(店当たり月額利用料1980円)付きで1.6%と設定しました。クレジットの3〜5%、交通系電子マネーの3%程度に比べるとかなり割安です。QR決済は日用品など小口購買の際に使われることが多く、取引処理コストは他決済とさして変わらない。だからと言って、3%とか5%を取ることはできません。今では2%程度が相場ですが、普及とともに1%とか、更には0.5%と下がっていくことでしょう。仕方ありません。小口決済はコモディティ・ビジネスです。薄利多売を前提とする経営戦略を立てるしかありません。

筆者は電子決済業者と話をする時に必ず「何故、こんな儲からないビジネスをやるのか?いつまで続けるの?」と聞きます。答えはいつも予想通りで「決済では儲かりません。データに価値があるのです。」です。「どんな価値があるのか?」と聞くと、アリババなどの事例で説明してくれます。「日本でアリババのような繊細な個人情報を使って、やりたい放題が日本で出来ると思いますか?」と聞くと「その点は充分に認識しています。」と言いますが、具体的なデータ活用策はまだ見つかっていないようです。

PayPayマイストアは、PayPayのスマホアプリに自店ページを開設でき、アプリ地図に自店位置を表示したり、割引クーポンを配布したりできます。顧客毎の利用状況に応じた販促メールを打つ機能もあるそうです。こうした機能は特色のある商材を扱う店には良いでしょう。しかし、多くの中小小売店は基本的に地域密着です。時間セールや割引ポイント、地域マネー連携などが主な顧客サービスになるかと考えます。すると、市場は細かく分断されて、集めるデータの範囲、粒度、タイミングが異なってきます。それが出来るのがDXだとか、データサイエンスだといわれると言葉を返せないのですが、本心ではそんな浅い話ではあるまいと思っています。

決済タイプ毎の加盟店手数料率を前述しました。昔から疑問に思っているのですが。どうして加盟店は決済手数料を販売価格に反映しないのでしょう?昔、家具を買う時に現金購入とクレジット購入で7%の価格差のある店がありました。店員に聞くとクレジット決済手数料が理由です。普通の店では価格、それも現金購入価格とのドンブリ勘定です。その時に思ったのは、商品価格+消費税+決済手数料で販売した方が透明性を上げて、利用者の選択を合理化できるということです。決済手数料を負担しながら1%のポイントをもらって喜ぶなんて馬鹿らしい。以来、決済端末ベンダーの方と話す時は、この機能を組み込んだらと言うのですが、良い返事はありません。考えてみたら、決済端末事業にとって決済事業者はお客でした。

筆者は元々、スマホQR決済には消極派です。交通系プリペイ・マネーに比べて操作が何段階と面倒で時間がかかることと、セキュリティに懸念があるからです。他にも決済手段があるので、さしたるメリットのないポイント目当てにQRを使う理由がないのです。また、遠からず、マイナカードがスマホに統合されて生体認証との多重認証が進めば、QRの役割は終えるだろうと思っています。先の話ですが、CBDC(中央銀行発行のデジタル通貨が出てくれば、電子マネーはあっという間に過去のものになるのではないかと思っています。とはいえ、QR決済は簡易な電子決済手段ですから、もうしばらく使われるでしょう。ですから金融機関がQR決済事業者との提携を検討する際に反対はしません。ただし、いずれは他の決済手段に置き換わるという前提を置くべきだとは提言します。

さて、QR決済の余命を考える際のポイントですが。第一は事業の採算性でしょう。現在のQR決済規模は年4兆円です。手数料は下がり続けるでしょうから1.5%と仮置きします。年600億円が手数料収入の最大値です。PayPayの年間営業赤字を補てんすることすらできません。これから電子決済化率が3倍になったとしてもマックス1800億円です。立ち食いそば市場の半分以下です。小口決済だけでは装置産業が成り立つ術がありません。QRに余程の技術革新が起きて、UI/UXが大きく進化すれば話は別でしょうが。残念ながら色彩QRなど様々なチャレンジは止まってしまい、QRはレガシー化してしまったようです。

データ利活用ビジネスが本命だとの意見は多い。でも一見、素晴らしい展望にも落とし穴はあります。データ利活用は競合他社にない使い方をして効果が得られます。皆が同じ使い方をしてクーポン発券やGPSを使って近隣の自社店舗へ誘導したら、どうなるでしょう。繁華街の客呼び込み合戦と同じでしょう。体力勝負です。それを避けるには、スピード、UI/UX、コストの勝負となり、結局は安定した経営基盤とはなりえない。リスキーでストレスの大きなビジネスにサステナビリティが耐えられるか?それが、DX時代の宿命だと言われるのかも知れませんが。

小口決済とデータ利活用は、もっと大きくて長い視野で考えるか、短期で採算を成り立たせる戦略が必要です。それができないならば、他人のプラットフォームを都合の良い時だけ使うという発想でしょうか。

 

                              (令和3年8月25日 島田 直貴)