デジタル証券で小口投資 (三井物産がファンド)


令和3年8月31日付け日経新聞です。三井物産が子会社の三井物産デジタル・アセットマネジメント経由でデジタル証券の仕組みを使った個人向け投資金融サービス事業に参入すると発表しました。インフラ資産や不動産など個人が投資するには規模が大きすぎる実物資産を電子記録移転有価証券表示権利として販売します200万円からです。資産運用、ブロックチェーン管理、証券販売まで一気通関で提供できるように関連する許認可(第一種と第二種の金融商品取引業、投資運用業の登録)を取得済みとのことです。まずは、物産グループが保有する通信基地設備やデータセンター、改訂通信ケーブルなどのインフラ資産を対象にファンドを組成する予定です。

当面はプロ投資家向けのオンライン投資サービスに限定するサービス「ALTERNA」に絞って、販売をオンライン化することでUXなどの実績と経験を積み上げる計画です。次の段階では、デジタル証券化を前提に優良実物資産を開拓してオルタナティブ資産の証券化を進める予定です。3年以内に1千億以上の運用残高を目標にしています。同社の特徴としては、組成・運用・販売を垂直統合することで無駄を省いて、顧客ニーズに迅速対応できるビジネスモデルを構築するとのことです。最初からSTP化(Straight Through Processing)の仕組みです。

筆者は今の金融業界最大の課題は運用力だと思っています。低金利やフィンテックなどの新規参入などが低収益の原因とされ、銀行などは新規収益源の開発に躍起となっていますが、コンサルや地域商社など年間収益(利益ではない)数億円のビジネスばかりです。灯台下暗しと言いますが、もっと資産運用に力を入れるべきでしょう。

わが国の個人が持つ金融資産は2千兆円と言われます。その大半は殆ど収益を生まない状態が続いています。イギリスなどは英国病と言われた時代から、いまでは金融資産運用が経済力の柱です。を支えています。シティの資産運用会社の多くは、年間の運用利回りが5〜10%と聞きます。オルタナティブやエマージング市場などへのダイナミックなリスクテイクと運用スキルがそれを支えています。投資家と資産運用会社がこの収益を山分けしています。

仮に、日本の2千兆円を5%で運用したら、それだけで100兆円です。GDPの20%です。随分と無茶な計算ですが、それほどの経済的インパクトがあると実感できるでしょう。金融機関には「きちんと働いて、OECD上位国平均の6割しかない金融業労働生産性を平均並みに上げて下さい。もっと戦略的に働いて下さい。その為には金に働かせることです。」と言うのですが、金融界の皆さんは預貸ビジネスしか見ない。金融業界がやらないのなら、ノンバンクにやってもらうしかないと思うようになりました。フィンテックなど新規参入との競争も良いですが、それよりもっと重要で成果が期待できるのが、資産運用ビジネスだと思うのですが。

デジタル証券は、別名デジタルトークンと呼ばれその代表的な仕組みがSTO(Security Token Offering)です。大小プロジェクトなどの資金調達目的に発行される。似た投資方法としてICOがありますが、投資対象の不透明性や不確実性がネックとなって普及が低迷しています。そこで政府は、有価証券取引に準じた規制として厳格な発行基準を設けました。それが2020年改正資金決済法・金融商品取引法です。電子記録移転権利としての該当要件や金商法等の適用対象範囲を定めています。ブロックチェーンを使うので発行や権利移転に係るコストが削減でき、投資の小口化も可能です。結果として個人の小口資金などによる投資機会が拡大できる筈です。

現時点でデジタル証券ビジネスに参入する金融機関は、MUFG、野村証券、SBI証券などだけですが、今後、証券会社や信託銀行などの参入が拡がるでしょう。SMFGはSBIと組んで2022年にPTSを設立し、2023年からデジタル証券を扱う計画を発表しています。遠からず、業界横断のSTO専用PTS設立の話になるでしょう。

メガバンクなどには証券子会社や信託子会社があり、有価証券ビジネスでの組成・運用・販売の経験、スキルがあるでしょうから、このビジネスへの参入は、組成力次第ということになります。地域金融機関としては、メガと同様に証券子会社経由とするか、大手と提携して自社は投資対象の開拓と販売に特化するか、業態毎に共同子会社を設立するかでしょう。現在、地銀や信金などは、CF(クラウド・ファンディング)に注力していますが、STOにより運用ビジネスへの本格的な参入が可能になります。何よりも、地域における資金調達手段の多様化とそれを通じた地域創生プロジェクトの活性化も期待できます。個人金融資産の10%くらいは、デジタル証券に振り替えるくらいの戦略を考えて欲しいものです。ここでも人材がポイントとなりますが、専門家の採用や若手社員の出向研修などを通じて、2、3年以内にコア人材の確保が求められるでしょう。

 

                              (令和3年9月9日 島田 直貴)